日本神話において「海」は、恵みと畏怖が共存する特別な領域でした。
その海を象徴する神として登場するのが 大綿津見神 (おおわたつみのかみ)。
海の三層を支配し、海神族の祖として日本の歴史と神話に深く関わるこの神は、 天皇家の系譜にも影響を与え,海神族(安曇氏)の祖神としても崇敬される重要な存在です。
本記事では、大綿津見神の正体と魅力を、神話の流れとともに紐解いていきます。
はじめにー大綿津見神とは
大綿津見神(おおわたつみのかみ)の名前の由来について説明します。
- 「大」(おお) :美称(尊称)であり、信仰の大きさを表す
- 「綿」(わた)=海:海を表す古語
- 「津」(つ) ”~の”に相当する古語の助詞
- 「見」(み) :見る・見守る
★つまり「綿津見(わたつみ)」とは、“海(ワタ)+の(ツ)+見守る(ミ)”を意味する古語に由来し、大綿津見神とは“海の神霊・海を司る主宰者”を表す名前です。
大綿津見神の基本プロフィール
{名前}:大綿津見神(おおわたたつみのかみ)
{別名}:綿津見大神・海神(わたつみ)・海若(わたつみ)・少童命(わだつみのみこと)
{家族構成}
- 父:伊邪那岐命(いざなぎ)
- 母:伊邪那美命(いざなみ) ※諸説あり
- 子:豊玉姫(とよたまひめ)・玉依姫(たまよりひめ)・穂高見命(ほたかみのみこと)
- 孫:鵜葺草葺不合命(うがやふきあえず)→初代・神武天皇の父
{キャッチコピー}:「海原すべてを統べる、海界の大主宰」
{性 格}
- 圧倒的な包容力: 海のように広く深く、来る者を受け入れる懐の深さ
- 静かで威厳がある: 荒ぶるよりも「深海の静けさ」を思わせるタイプ
- 家族思いで義理堅い :娘の豊玉姫を嫁がせ、孫の誕生にも関わる
{象 徴}
- 海の支配:海底・海中・海面の三層を統べ、潮の満ち引き、海流の循環を司る
- 浄化の力:伊邪那岐命の禊から生まれた神であるため 「穢れを祓う水の力」を操る
- 海の守護:航海安全・海上交通・海の恵み(漁業・海産物)
大綿津見神の誕生
大綿津見神の誕生は、日本神話の中でも特に複雑で、 「神生み」と「禊」の二つの場面に描かれています。
どちらが正しいとは言えないので、二つとも説明していきます。
『古事記』における最初の誕生 ― 神生みの段
まず最初に登場するのは、「神うみ」の場面です。
「国うみ」を終えた伊邪那岐(いざなぎ)と伊邪那美(いざなみ)は、続けて神々を産む「神うみ」を行います。
ここで産まれたのは、風の神・木の神・野の神といった自然にまつわる神々でした。
その中で生まれた一柱が、海の神である大綿津見神です。
第二の誕生 ― 伊邪那岐の禊による「綿津見三神」の誕生
次に登場するのは、禊(みそぎ)の場面です
伊邪那岐は黄泉の国から戻ると、穢れを祓うために禊を行いました。
禊の際に多くの神が生まれます。その中で生まれたのが、
- 底津綿津見神(そこつわたつみ):海の底を司る神
- 中津綿津見神(なかつわたつみ):海の中層を司る神
- 上津綿津見神(うわつわたつみ):海面を司る神
の綿津見三神です。この綿津見三神が大綿津見神だといわれています。
海幸山幸神話との深い関わり

大綿津見神は、海幸彦と山幸彦の神話にも登場します。
海幸彦(火照命)と山幸彦(火遠理命)は、道具を交換して山幸彦は海に釣りに行きます。
しかし彼は、海幸彦から借りた釣針を海に落としてしまいます。
山幸彦が悩んでいると、塩椎神(しおつちのかみ)がやってきて、大綿津見神の宮殿へ行くように言いました。
やってきた山幸彦を大綿津見神は手厚くもてなします。そして、娘の豊玉姫と結婚させ、帰りには失くした釣針と、鹽盈珠(しおみちのたま)・鹽乾珠(しおひのたま)を持たせて地上に帰してくれました。
やがて豊玉姫は、神武天皇の父となる鵜葺草葺不合命(うがやふきあえず)を産みます。
大綿津見神は、海神族と天孫族の結びつきのために大きな役割を果たしたといえるでしょう。
大綿津見神を祀る神社
大綿津見神(おおわたつみのかみ)は、海の深層から海面までを司る海神であり、
航海・漁業・水難除けの守護神として古代から厚く信仰されてきました。
ここでは、大綿津見神を祀る神社をいくつか紹介していきます。
志賀海神社(しかうみじんじゃ)| 福岡県福岡市東区志賀島
■御祭神
- 底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)
- 中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)
- 上津綿津見神(うわつわたつみのかみ) ※大綿津見神だとされる三柱
■神社の特徴
- 「海神の総本社」として古代から崇敬される
- 海人族 安曇氏の本拠地で、今も安曇氏の末裔が宮司を務める
- 境内には「鹿角堂」があり、奉納された大量の鹿角が収められている
- 志賀島は金印「漢委奴国王」が出土した歴史の地でもある
■ご利益
- 航海安全・海上交通の守護・海の恵み・国家安泰・水難除け
風浪宮(ふうろうぐう)|福岡県大川市
■御祭神
- 大綿津見神(おおわたつみのかみ)
- 息長足姫命(おきながたらしひめのみこと)=神功皇后
- 住吉三神(底筒男命・中筒男命・表筒男命)
■神社の特徴
- 創建は 神功皇后の三韓征伐の帰途 と伝わる古社
- 「風浪宮」の名の通り、風と波を鎮める神として信仰
- 境内には古代の海人族の痕跡が残り、海上交通の要衝として栄えた地域
- 春の「風浪宮大祭」は九州三大祭の一つに数えられる
■ご利益
- 航海安全・海上交通の守護・水難除け・勝運・開運・厄除け
渡海神社(とかいじんじゃ)|千葉県銚子市
■御祭神
- 大綿津見神
- 猿田彦大神
■神社の特徴
- 銚子市の海沿いに鎮座し、太平洋を望む絶景の神社
- 天然記念物「渡海神社の極相林」がある
- 海風が強く、まさに「海の神の社」を体感できるロケーション
■ご利益
- 漁業繫栄。大漁祈願・海難除け・航海安全
★今度の休日に潮風の中で、海神の息使いを感じてみませんか?
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。
海底から海面まで三層を統べた大綿津見神は、古代の人々にとって畏敬と恵みの象徴でした。
海神族や天皇家の系譜にも深く関わるその存在は、日本神話の中でも特に重要な位置を占めています。
静かに海を見つめるとき、私たちは太古の人々が感じた「海の向こうの世界」への想像を共有しているのかもしれません。
またお会いしましょう。


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