天岩戸の前で、世界を救った一人の女神がいました。 その女神の名は 天宇受売命(あめのうずめのみこと)。
彼女は、神々が恐れた闇を“笑いと舞”によって打ち破り、 太陽神・天照大神を再びこの世界へと導いた、日本神話屈指のヒロインです。
本記事では、天宇受売命の名前の由来、性格、象徴、神話での活躍、 そして彼女を祀る神社までをわかりやすく紐解いていきます。
はじめにー天宇受売命とは
名前の由来について説明します。いくつかの解釈があるようです。
◆「天(あめ)」+「宇受(うず):渦・斎・忌」+「売(め):女性」→『古事記』
- 天の神聖な場で舞い踊る巫女
- 「うず」は”渦巻くように舞う”や”神事の場を清める”という解釈もあり、神楽の起源を象徴
◆「天(あめ)」+「鈿(うずめ)」+「女」→『日本書紀』
- 鈿(うずめ)とは、かんざしを意味します。かんざしは神霊を宿す依代(よりしろ)、つまり神を降ろす巫女を表す名前
◆[天(あめ)]+「おず(強い)」+「女(め)」
- 天津神の”強い女”を表す名前
天宇受売命の基本プロフィール
{名 前}
- 天宇受売命(あめのうずめのみこと):「古事記」
- 天鈿女命 (あめのうずめのみこと):「日本書紀」
{家 族 構 成}
- 夫:猿田彦命(さるたひこのみこと)
- 子:猿女君一族(宮中で舞いや祝詞を担当する芸能集団)の祖とされている
{キャッチコピー}
- 「笑いで世界を照らす、神楽の始祖」
{性 格}
- 明るく快活、恐れを知らない大胆さ
- 神々が困っている時に、真っ先に行動する“ムードメーカー”
- ただ陽気なだけでなく、 状況を読み、儀式としての舞を成立させる知性と神聖性を持つ
- 天照大神のために舞を捧げた”献身性”
{象 徴}
- 舞・踊り・芸能全般の守護神
- 巫女・神楽・祭礼の象徴
- 笑い・陽気さ・再生
- 天岩戸開きの鍵を握る存在
神話のエピソード

天岩戸で世界を救う
須佐之男命との誓約をした後、須佐之男命の態度に恐怖と悲しみを感じた天照大神は、天岩戸に隠れてしまい、世界は光を失ってしまいます。
困った八百万の神々は、天の安河の河原に集い。解決策を探ります。
そして、思金神(おもいかねのかみ)の発案により、様々な儀式を行いました。
八咫鏡(やたのかがみ)と八尺瓊勾玉(やさのかにのまがたま)を作り、岩戸の前に置きます。
そして、天宇受売命は、岩戸の前で桶を伏せて踏み鳴らし踊り始めます。
その踊る姿は、背をそり乳房を露わにし、裳の紐を女陰まで押したれて、低く腰を落して足を踏む踊りで、八百万の神々を大笑いさせました。「古事記より」
天照大神は、「私が隠れたせいで世界が暗闇になっているのに、なぜ笑っているのだろう」
と不思議に思い、戸を少し開けて外の様子を見てみます。
機会を待って隠れていた天手力男神(あめのたぢからおのかみ)は、その怪力で岩戸を開けて天照大神を引き出すことに成功しました。こうして再び世界に光が戻ったのです。
天宇受売命が天岩戸の前で踊った舞は、神楽の起源といわれています。
トランス状態に入ったように激しく踊ったその姿は、神が降りてきた巫女としての踊り。
足拍子(リズム)・歌(祝詞的な声)・身振り(舞)がそろっていて、これはのちの神楽の基本構成といえます。
猿田彦命との出会い
天宇受売命は、ニニギ命に同行して天降りした五伴緒の一柱。
一行が天降りしようとしたとき、天の八衢(やちまた)で、道をふさぐように立ち、天と地上を照らす神がいました。
その姿は、鼻が長くて背が高く、大きな目が赤く輝いています。黙ったまま動こうとしません。
正体がわからず不安になった天照大神と高木神は、天宇受売命にこう告げます。
「お前は誰と対しても気後れすることはないから、何者かお前が聞いてきなさい」
使命を受けた天宇受売命は、胸乳を露わにして、裳帯を臍(ほそ=ヘソ)の下におしたれて笑いながら問います。『日本書紀より』
「お前は何者だ。なぜここにいる。」
すると、今まで黙って立っていた神が答えます。
「私は、国津神の猿田彦命。天孫が降臨してくるのを知り、道案内するためにここで待っていました」
安心したニニギ命たちは、猿田彦命に道案内してもらい、無事に地上へ降りることができました。
その後、猿田彦命は故郷の伊勢国の五十鈴川へ帰ります。
ニニギ命は、天宇受売命に猿田彦命と一緒に行き、名前の一部をもらい仕えるようにと告げました。
こうして天宇受売命は、「猿女君」と呼ばれるようになったそうです。
ナマコの口はなぜ裂けている?
地上に降りた天宇受売命は、大小の魚を集めて天孫(ニニギ命)に仕えるかを尋ねました。
皆「仕える」と答えたのですが、ナマコだけは何も答えません。
「不敬」だとして、天宇受売命はナマコの口を小刀で裂いてしまいました。
その結果、現在でもナマコは裂けた口のままでいるそうです。
天宇受売命を祀る神社
天宇受売命は、天岩戸で舞を披露し世界に光を取り戻した「芸能の祖神」。
その明るい力は、芸能成就だけでなく、縁結び・開運・場をひらく力として、今も多くの人に信仰されています。
ここでは、代表的な神社を紹介します。
佐瑠女神社(さるめじんじゃ)|三重県伊勢市(猿田彦神社の境内社)
■御祭神
- 天宇受売命(あめのうずめのみこと)
■神社の特徴
- 伊勢神宮外宮からも近く、参拝者が非常に多い
- 芸能人の奉納札・のぼりが並ぶことで有名
- 猿田彦神社の境内にあり、夫婦神としての信仰も厚い
■ご利益
- 芸能成就・技芸上達・縁結び・良縁・開運
椿岸神社(つばきぎしじんじゃ)|三重県鈴鹿市(椿大神社の境内社)
■御祭神
- 天宇受売命(あめのうずめのみこと)
■神社の特徴
- 椿大神社は猿田彦命の総本宮
- 椿岸神社は天宇受売命の本宮とされ、芸能関係者の参拝が多い
- 境内の「かなえ滝」は願いが叶う滝として人気
■ご利益
- 芸能、芸道上達・夫婦円満・開運・良縁
佐倍乃神社(宮城県名取市)
■御祭神
- 猿田彦神(さるたひこのかみ)
- 天鈿女命(あめのうずめのみこと)
■神社の特徴
- 景行天皇40年(110年)創建と伝わる古社
- 出雲流「道祖神神楽」が奉納される神楽の社(例祭は4月20日)
- 夫婦神を祀る「縁結びの神社」
- 伊達政宗公の崇敬を受けた格式ある社
■ご利益
- 道開き・交通安全・芸能成就・技芸上達・縁結び・夫婦和合・厄除け・方災解除
★今度の休日、天岩戸を開いた女神の力を感じに行ってみてはいかがでしょうか。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。
天宇受売命は、暗闇に閉ざされた世界へ光を呼び戻した、笑いと舞の女神です。
天岩戸での神懸かりの舞、天孫降臨での勇敢な交渉、そして芸能の祖としての神格。
その姿は、今を生きる私たちに「心をひらき行動すれば道はひらく」という力強いメッセージを残しています。
彼女の明るさと行動力は、迷いの中にいる時こそ思い出したい、希望の象徴です。
またお会いしましょう。


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